「スペシャルティコーヒー」という言葉には、日本の法律で決められた定義はありません。
業界でも確立された1つの定義はなく、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)などの団体が、それぞれ条件を決めています。
そのため、どの団体が、何を基準に「スペシャルティ」と呼んでいるのかを知っておくと、袋の言葉に振り回されずに選べます。
2つの団体の定義
よく引かれるのは、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)と、スペシャルティコーヒー協会(SCA)の定義です。
同じ「スペシャルティ」でも、2つの団体では基準を置く場所が少し違います。
SCAJ:カップの中の風味と、豆からカップまでの管理
SCAJの定義(原文)
「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。」
ここでいう素晴らしい美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくことです。
そのうえで、豆(種子)からカップまでのすべての段階で、一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須の条件です(From seed to cup)。
具体的な段階は、次の3つです。
- 生豆: 生産国で栽培管理・収穫・生産処理・選別・品質管理が適正に行われ、欠点豆の混入が極めて少ないこと
- 焙煎豆: 適切な輸送と保管で劣化のない状態で焙煎され、欠点豆の混入が見られないこと
- 抽出: 適切に抽出され、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されること
さらに要件として、サステナビリティ(持続可能性)とトレイサビリティ(生産履歴をたどれること)も重視されています。
SCA:評価される「特性」と、市場での付加価値
SCAの定義は、2021年9月の白書「Towards a Definition of Specialty Coffee」にもとづく次のものです。
SCAの定義(原文と訳)
Specialty coffee is a coffee or coffee experience recognized for its distinctive attributes, and because of these attributes, it has significant extra value in the marketplace.
際立った特性によって認められたコーヒー、またはコーヒー体験であり、その特性のために市場で大きな付加価値を持つもの。
この定義は、1つの点数や味の言葉を超えたものです。
見る特性には、風味・香り・口当たりのような「カップそのものの特性」と、産地・生産者・栽培の方法・精製方法のような「情報としての特性」の両方が含まれます。
2つを並べると
| 比べるところ | SCAJ | SCA |
|---|---|---|
| 基準の中心 | カップの中の風味の美味しさ | 際立った特性と、市場での付加価値 |
| 見る範囲 | 生豆・焙煎豆・抽出の全段階 | 味の特性と、産地や生産者などの情報 |
| 判定のしかた | SCAJのカップ評価基準で、一般のコーヒーと判別・区分 | 1つの点数だけでは決めない |
どちらの定義も、「どこで、どう作られたか」が分かることを価値の一部に入れている点は共通しています。
スペシャルティという考え方が生まれた背景
スペシャルティコーヒーは、1970年代までの大量消費時代に課題になったコーヒーの品質低下に歯止めをかけるために、アメリカのスペシャルティコーヒー協会(SCAA)が提唱した、高品質コーヒーの概念です。
SCAAは1982年に、アメリカのスペシャルティコーヒーの共通基準を作ろうとコーヒー関係者が集まってできた団体で、2017年にヨーロッパスペシャルティコーヒー協会(SCAE)と合併してSCAになりました。
日本スペシャルティコーヒー協会は、2003年4月22日に設立されています。
カップの評価で見る7つの項目
SCAJの基準では、スペシャルティコーヒーかどうかを、カップの中の液体の風味で判別します。

判定で見るのは、次の7項目です。
| 項目 | 評価の要点 | 家で飲むときの言い換え |
|---|---|---|
| カップのきれいさ | 「汚れ」や風味の欠点・瑕疵がまったく無いこと | 嫌なにおいや雑味が引っかからないか |
| 甘さ | 収穫時のチェリーの熟度と、その均一さに関係する甘さの感覚 | 飲んだあとに甘い印象が残るか |
| 酸味の特徴 | 酸の強さではなく、質を評価する | 酸っぱさが刺さるか、明るく感じるか |
| 口に含んだ質感 | 粘り気・密度・滑らかさなどの触覚 | 口の中で軽いか、とろりとしているか |
| 風味特性 | スペシャルティと一般のコーヒーを区別する最も重要な項目で、栽培地の特性(テロワール)が表れているか | その産地らしい香りや味があるか |
| 後味の印象度 | 飲み込んだあとのコーヒー感が、甘さの感覚で消えていくか | 後味がすっと消えるか、えぐみが残るか |
| バランス | 風味の調和がとれているか、突出や欠けがないか | どれか1つだけが強すぎないか |
「家で飲むときの言い換え」の列は、家庭で味わうときの目安です。
この尺度は、一般のコーヒー(メインストリーム・コーヒー)の判定に使う、欠点を調べるための尺度とはまったく異なります。
酸味を質で見るという考え方と、味を表す言葉の見本(フレーバーホイール)は、味の好みで選ぶコーヒー豆の早見表でも紹介しています。
スペシャルティなら、誰が飲んでもおいしいのですか?
SCAJの定義の中心は、消費者が美味しいと評価して満足することです。
ただ、酸味の明るさを楽しむ豆もあれば、苦味とコクが前に出る豆もあり、好みに合うかどうかは別の話です。
酸っぱいのが苦手なら、焙煎度や産地の傾向から選ぶ方が外れにくくなります。
袋と商品説明で確かめるところ
コーヒーの公正競争規約が袋の一括表示欄に書くよう定めているのは、名称、原材料名(生豆生産国名)、内容量、賞味期限、保存方法、挽き方などです。

「スペシャルティ」という言葉や、品種・精製方法は、この必要な表示事項に入っていません。
そのため、店がどんな基準で「スペシャルティ」と呼んでいるかは、袋の表や商品説明から読み取ることになります。
次の項目が書かれているかを見ると、From seed to cupやトレイサビリティの考え方に沿った情報がどこまで出ているかが分かります。
- 生産国より細かい場所: 地域名、農園名、生産者名、標高など
- 品種: ティピカ、ブルボン、ゲイシャなど(アラビカ種の中の品種名)
- 精製方法: ウォッシュド、ナチュラル、ハニーなど
- 焙煎日: 焙煎した日付(書くかどうかは店によって違う)
- 評価や入賞歴: 品評会での入賞、店独自の評価など
カップ・オブ・エクセレンス(COE)とは
スペシャルティコーヒーの売り場で見かけることがあるのが、「カップ・オブ・エクセレンス」や「COE」という言葉です。

COEはその年に収穫されたコーヒーのうち、最高品質のものに与えられる称号です。
選ばれた豆はインターネットオークションにかけられ、世界中のコーヒー業者が入札し、落札金額の大部分が生産者に還元される仕組みになっています。
袋に「COE」の文字があれば、その年の品評会で選ばれた豆だという意味です。
スペシャルティコーヒーでよくある疑問
- スペシャルティかどうかは、点数で決まるのですか?
-
SCAの定義は、1つの点数や味の言葉を超えたものです。
SCAJのカップ評価基準も、一般のコーヒーと判別するためのものですが、スペシャルティコーヒーの発展・変化に合わせて随時修正することになっています。
袋に点数が書かれていても、それは店や評価した人の基準による数字だと受け取っておくと誤解がありません。 - ロブスタ(カネフォラ種)のスペシャルティコーヒーはありますか?
-
ロブスタはカップの品質を低く見られがちですが、適切に扱い、精製すればスペシャルティ市場向けの産品にもなりえます。
買おうとしている豆がアラビカ種かロブスタかは、商品説明の品種の欄で確かめられます。
- 日本と海外で、おいしいと感じる味は違うのですか?
-
SCAJの定義には、日本人がおいしいと感じるコーヒーの風味特性を研究課題とするという補則もあります。
どの国の基準でも、最後に決めるのは自分の好みなので、気になった豆は少量から試すのが確実です。
淹れ方と保存は、ふつうの豆と同じ考え方で
特別な淹れ方は要りません
SCAJの定義には「適切な抽出」が含まれていますが、これは豆に合った粉の量・湯温・時間で淹れるという意味で、特別な道具が必要という意味ではありません。
ペーパードリップの粉の量や湯温の目安は、ハンドドリップのやり方の手順がそのまま使えます。

開封後は香りが抜けていくので、豆のまま密封し、飲み切れる量だけ買うのが基本です(保存の方法はコーヒー豆の保存方法)。
価格の高い豆ほど、大袋で買って飲み切れずに香りを落とすのがもったいないので、少量の袋から試すと無駄が出ません。
袋を裏返す前に、表の説明を読む
スペシャルティかどうかを、袋の一括表示欄から見分けることはできません。
表の説明に、地域や農園、品種、精製方法がどこまで書かれているかが、その豆についてどれだけ情報が出ているかを知るいちばん手早い手がかりです。




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