家でコーヒー豆を焙煎するときに、最初に決めておくのは「どの道具で煎るか」と「火・煙・チャフ(薄皮)をどう扱うか」の2つです。
焙煎そのものは生豆(なままめ)を加熱して炒りあげることで、手順はそれほど複雑ではありません。
ただし台所のコンロで火を使い、煙と薄皮が出る作業なので、味より先に安全の段取りを決めておくことが、続けられるかどうかの分かれ目になります。
焙煎中の豆に起きること
生豆は、売り場で見かける茶色い豆とはまったく違う見た目をしています。
加熱していくと、色・音・香りが順に変わっていくので、その変化を目印に止めどきを決めます。
緑の生豆が、黄色から茶色へ変わる
焙煎前の生豆はちょっぴり緑がかった色で、わずかに青臭いにおいがします。
生豆そのものにはほとんど味や香りがなく、焙煎することで酸味・苦味・甘味・香りが引き出されます。
加熱を続けると、豆は全体が黄色くなり、そこから茶色、こげ茶色へと進みます。

「ハゼ」の音が、止めどきの目印になる
焙煎が進むと、豆がはじける音がします。
最初に聞こえる「パチパチ」という音を1ハゼ、そのあと音が落ち着いてから聞こえる「ピチピチ」という音を2ハゼと呼びます。
1ハゼが終わるころがミディアムロースト、2ハゼのはじまりがハイローストというのが大まかな目安です。
ミディアムやハイといった焙煎度の名前と、色や味の違いは浅煎り・中煎り・深煎りの違いで8段階の表にしています。
薄皮(チャフ)と煙が出る
コーヒーの種子には、シルバースキン(銀皮)と呼ばれる薄い種皮があり、精製の工程でほとんど取り除かれます。
それでも、生豆には薄皮が付いていて、焙煎中に舞います。
この舞い上がる薄皮が、焙煎でいうチャフです。
焙煎が進むにつれて豆から煙も出てくるので、チャフと煙の両方を、始める前にどう逃がすか決めておく必要があります。
手網・フライパン・家庭用焙煎機の違い
家で使われる道具は、大きく3つに分けられます。
どれを選ぶかで、手間と、毎回同じ仕上がりにできるかどうかが変わります。
| 比べるところ | 手網(ハンドロースター) | フライパン | 家庭用焙煎機 |
|---|---|---|---|
| 熱源 | ガスコンロなどの火 | ガスコンロ・IHなど | 電気(家庭の100V) |
| 1回の量 | 器具に合わせて自分で決める | 自分で決める | 機種ごとに決まっている |
| 手間 | 振り続ける | 混ぜ続ける | ボタン操作と冷却待ち |
| チャフ | 網の外にも舞いやすい | ふたがなければ舞う | 本体のケースや排気部にたまる |
| 毎回の仕上がり | 火加減と振り方で変わる | 火加減と混ぜ方で変わる | 設定を同じにすればそろえやすい |
はじめての1回なら、家にある道具で試すなら手網、続けたい・失敗を減らしたいなら家庭用焙煎機という分け方が考えやすい目安です。
手網:音と色を確かめながら煎れる
手網は、網のかごにふたが付いた形の道具です。

コーヒー豆用のハンドロースターのほか、銀杏を煎るときの手網でも代用できます。
火の上で左右に振り続けるので、豆の色が見え、ハゼの音も聞き取りやすいのが利点です。
一方で、振る高さや速さで火の当たり方が変わるため、最初の数回は仕上がりがばらつくものと考えておくと気が楽です。
フライパン:手軽だが、焦げとムラに気をつける
フライパンは、新しい道具を買わずに始められる方法です。
鍋肌に触れている面だけが先に焦げやすいので、木べらなどで休まず混ぜ続けます。
ふたをしないと、はがれたチャフがコンロの周りに散らばります。
火の当たり方がそろいにくい分、焼き上がったあとに、焦げた豆や色の薄い豆を選り分ける手間が増えます。
家庭用焙煎機:量と時間が決まっている
家庭用焙煎機は、焙煎度を選んでボタンを押すと、加熱から冷却までを機械が進める道具です。

ダイニチの2機種を例にすると、違いは次のとおりです。
| 機種(ダイニチ) | 生豆の量 | 時間の目安 | 消費電力 | 焙煎度の選び方 |
|---|---|---|---|---|
| MR-SVF60B | 60g | 約16〜25分(冷却約10分を含む) | 1300W | 8種類(浅め・標準・深め・エスプレッソ) |
| MR-102 | 120g | 焙煎約15分+冷却約8分 | 595W | 12段階(風味3×煎り加減4) |
1回に入れられる生豆の量が決まっているので、毎回同じ量・同じ設定で煎りやすいのが手網との大きな違いです。
価格や仕様は変わることがあるので、購入前にメーカーの最新の情報を確認してください。
手網で煎るときの手順
道具を新しくそろえなくても始められる、手網での流れは次のとおりです。
欠けている豆、黒い豆、白っぽい豆が混じっていたら、焙煎の前に取り除きます。
最初はなるべく粒のそろった豆を選ぶと、均一に煎りやすくなります。
一度にたくさん入れると焙煎ムラの原因になるので、使う手網に合った量だけ量ります。
流水で1分程度、豆どうしをこすり合わせるように洗うと、焙煎中に薄皮が舞うのを減らせます。
洗ったらすぐに水気を拭き取ります。
冷えた豆をいきなり強く加熱すると、表面だけが焼けてしまいます。
最初の2〜3分は、強火の遠火で豆全体を温めます。
バーナーから15cmくらいの高さを保ち、左右に振り続けます。
豆が黄色くなり、1ハゼ、2ハゼと音が変わっていくのを聞きながら、ときどき色を確かめます。
好みの色になったらザルにあけ、うちわであおいで一気に冷まします。
冷まさないと、豆に残った熱で焙煎が進んでしまいます。
冷めたら、色ムラのある豆を取り除きます。
焙煎した豆は密閉容器に入れて2〜3日寝かせ、豆の中のガスがほどよく抜けたころがおいしいと言われています。
記録しておくと次が楽になること
生豆の名前と量、遠火で温めた時間、1ハゼが始まった時間、火から下ろした時間、仕上がりの色をメモしておきます。
気温や火力で時間は変わるので、同じ数字を目指すより「前回よりあと何分」と比べるために使います。
火・煙・チャフの注意
焙煎で起こりやすいトラブルは、火の消し忘れ、煙、チャフの3つです。
どれも道具を選ぶ前から対策を決められます。
火:コンロの前を離れない
横浜市内の住宅火災では、出火原因でいちばん多いのが「こんろ」で、出火の経過で最も多いのは「放置する・忘れる」です。
手網もフライパンも振り続ける・混ぜ続ける作業なので、火をつけてから止めるまで、その場を離れないことを前提にします。
こんろの周りに燃えやすい物を置かないこと、袖口の広がった服を避けること(着衣着火の防止)も欠かせません。
Siセンサーコンロには、鍋底の異常な過熱を検知して自動で消火する「調理油過熱防止装置」などの安全装置が付いています。
網やフライパンで焙煎するときにこの装置がどう働くかは機種によるので、手元のコンロの取扱説明書で、焼き網などを使うときの注意を確かめてから始めてください。
煙:換気扇を回し、窓を開ける
焙煎中の煙は、換気扇を回して外へ逃がします。

住宅用火災警報器(煙式)は、油が発火する前に出る煙に気づくための備えです。
煙式の警報器は煙に反応する仕組みなので、換気をせずに煎ると、台所の警報器が鳴ることがあります。
チャフ:焙煎機は毎回の掃除が安全につながる
手網やフライパンでは、チャフはコンロの周りや床に落ちるので、焙煎のあとに火の周りを掃除しておきます。
家庭用焙煎機では、チャフが本体の中にたまります。
経済産業省のリコール情報では、2025年5月に家庭用のコーヒー豆焙煎機について、使用後に十分に清掃しなかった場合、フィルターが目詰まりし、ローストコンテナの温度の上昇によりコーヒー豆もしくはチャフが発火する事故が起きたとして、回収・返金が行われています。
ダイニチのMR-SVF60Bでは、お手入れとして使うたびに排気口や内部のチャフを付属のブラシで取り除き、5回に1回程度は排気口のコーヒー油を中性洗剤で落とすことになっています。
焙煎でしないこと
火をつけたまま、コンロの前を離れる。
換気扇を回さずに煎る。
コンロの周りに、ふきんやキッチンペーパーを置いたままにする。
焙煎機のチャフを捨てずに、続けて何回も煎る。
機種の取扱説明書にない量の生豆を入れる。
生豆の買い方と、1回に煎る量
生豆は、スーパーではあまり扱われていません。
買えるのは、コーヒー豆の専門店やオンラインショップ、自家焙煎をしているカフェなどです。
1回に煎る量は、家庭用焙煎機なら機種が決めた生豆の量(上の2機種なら60gか120g)、手網ならその網で無理なく振れる量が上限です。
焙煎した豆は、ふつうの焙煎豆と同じように豆のまま密封して、直射日光と高温多湿を避けて置きます(冷蔵・冷凍の使い分けはコーヒー豆の保存方法)。
1日に何杯飲むかから量を決めると余らせにくく、その考え方はコーヒー豆の買い方で表にしています。
生豆の説明に書かれた精製方法(ウォッシュド・ナチュラルなど)や品種の違いは、別の記事「コーヒー豆の精製方法の違い」「アラビカ種とロブスタ(カネフォラ種)の違い」で扱っています。
自宅焙煎でよくある疑問
- 焼きムラが出たときは、どうすればよいですか?
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色の薄い豆や焦げた豆は、冷ましたあとに取り除きます。
次からは、最初に遠火で豆全体を温める時間を長めにとり、一度に入れる量を減らすと、ムラが出にくくなります。
- 集合住宅のベランダで煎ってもよいですか?
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チャフが風で隣の家へ飛んだり、煙やにおいが流れたりすることがあります。
ベランダでの火の使用を決まりで制限している建物もあるので、まずはマンションの管理規約を確認し、室内なら換気扇の下で行うのが無難です。
- 煎りたての豆は、すぐに飲めますか?
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飲むことはできますが、焙煎した豆は2〜3日寝かせて、中のガスがほどよく抜けたころがおいしいと言われています。
挽いて淹れるときの挽き目は、使う器具に合わせて決めます(ミルの選び方と挽き目の目安はコーヒーミルの選び方)。
最初の1回で守る3つ
はじめての焙煎では、仕上がりの色や味より、量を決めておく、換気扇を回す、火から目を離さないの3つを守れたかどうかを見てください。
この3つが毎回できるようになってから、止めどきを1ハゼ・2ハゼと動かして、自分の好みの焙煎度を探していけば十分です。
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